プラザ KWA


 No. 15-013   「山の温泉」   野口義行 (会員No. 825 焼津市)  

山に登る楽しみと言えば人それぞれだが、私の場合は絶対に譲れないのが温泉である。

歩いた後に疲れた身体を湯に沈める時「極楽、極楽…」と思わず呟いてしまうのはごく自然の成り行きだろう。 日本の山は温泉だらけなので下山後に温泉を探すのはたやすい。そこで山の温泉のエピソードを紹介する。

一番手は国見温泉。
秋田駒ヶ岳の登山口で私も二度登っているが、ここの湯は澄んだ緑の湯が特徴の山の温泉である。とにかく美しいエメラルドグリーンの温泉で湯の色だけで来る値打ちがある。昔、裏岩手を縦走しようと歩き始めたら国見温泉の露天風呂があり「リーダー、温泉があるよ!」の誰かの一声で計画性のないリーダーだった私はテント設営を即決した。お蔭で後の日程が大幅に狂いメンバーに迷惑を掛けた苦い経験がある。

〈教訓〉汗もかかずに温泉に入るな!ごもっとも。

次は本沢温泉。
山好きの方は御存知だろう。八ヶ岳の日本最高所にある露天風呂で知られる山小屋。五人も入れば窮屈な小さい露天風呂で、囲いも脱衣所もないから女性は敬遠し、男ばかりで体を摺り寄せる。そんな時、勇敢な女性がバスタオル一枚で入ってきた。男たちは目のやり場に困り、視線を逸らすのに懸命である。やがて女性は立ち上がり、風のごとく立ち去った。お見事! 露天風呂の眼前の落葉松が黄色く色づく十一月中頃の出来事であった。この時登った天狗岳は西天狗も東天狗も眺望抜群、日本中の名山が勢揃いしていた。

三番目は秋田の乳頭温泉、黒湯。
過去に鶴の湯、孫六は制覇済みで今回三度目。乳頭山に登る目的できたが、快晴で快適な山歩きをした夜のこと。幾つかある露天風呂の一つに入いると湯船が暗い。暗いはずだ、電気が付いていない。すぐ意味がわかった。夜空の星を見るために電気を消してあるとのこと。粋な演出である。美しい星空を湯船から見上げて旅の疲れを癒す。こんな時間を人は幸せと呼ぶ…。

そして北アルプスの蓮華温泉。
静岡からだと車が便利でいい。蓮華温泉までは車で入れる。後は白馬岳をピストンしてもいいし、雪倉岳、朝日岳を周回しても良い。余談ですが朝日岳直下の朝日小屋の食事は素晴らしく、小粋なレストランのような食事が出てくる。凡そ山小屋らしくないおいしさで興味のある人は是非泊ろう。さて蓮華温泉の露天風呂は天気に恵まれれば、山の絶景が展開していてとにかく気分が最高!折り紙つきです。

さて最後は白馬鑓温泉。
長らく行く予定でいたが、妻の足取りが回復せず山登り自体が計画出来なかった。町で一緒に歩いていてもいきなりバタリと手を突いたりするから、鎖や梯子のある危険な山道はとても連れて歩けない。ようやく昨年あたりから北アルプスなどに登れるようになった。
そして今年、満を持して白馬鑓温泉に。猿倉から大雪渓を登り白馬岳へ、宿泊はもちろん村営頂上小屋。また余談ですがより頂上に近い白馬山荘に泊まる人が多いがやめた方がいい。ここは食事はまずいし部屋も混んでいてお勧めできない。村営小屋の方は比較的空いているからゆったり眠れるし。食事も美味い。しかも朝も夜もバイキングでおかずは食べ放題なのだから泊まらない理由がないのだ。だいたい山小屋でバイキングなんて聞いたことがない。さて翌日は白馬鑓へ。鑓ヶ岳から急降下して途中、お花畑の大出原(おいでっぱら)へ。ここではチングルマの大群落に圧倒される。実に凄い、こんな光景は見たことがない。是非行くべし。最後はヒヤヒヤしながら鎖場を無事通過して鑓温泉に到着。やったー!温泉だー!そして翌朝、念願が叶い朝陽を見ながら温泉にどっぷりと浸かる。しみじみ生きる喜びを感じる山の湯であった。


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